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第2話 ご飯

last update Last Updated: 2025-09-18 10:46:43

会社のエレベーターの中で2人きり、私はそれだけでドキドキする。

「悪かったな、仕事してもらった上に待たせて」

「いえ、全然大丈夫ですよ」

思ったより、落ち着いて話せている。

「腹減った〜ひまり! イタメシ大丈夫?」

「はい、大好きです」

──うわ〜田上さんとイタメシだなんて、最高過ぎるよ。たとえコレが最初で最後だとしても、きっと一生の思い出になるよ。

神様仏様ご先祖様、ありがとうございます。

私のニコニコは、止まらない。

そして、田上さんがタクシーを停めてくれたので、2人で乗り込んでお店へと向かった。

私は、どうしても1つ気になって仕方がなかった。

モヤモヤして、やっぱり聞かずには、居られなかった。

なので、思い切って聞いてみた。

「あのう〜」

「ん?」

──うわ! 近っ! 田上さんがすぐ左隣りに座ってる〜

あ〜なんだか良い香りがする。

見つめられるとドキドキしてしまう。

長い時間、見つめ合うのは恥ずかしくて耐えられないので、一旦目線を外してから質問をした。

「私なんかと2人で食事に行っても大丈夫なんですか?」

全部言い終わるか否かで、もう一度目を合わせた。

「え? どうして? ダメなのか?」と、

田上さんは、上体を私の方に向けて座り直し、食い入るように大きな目で私を見つめている。

──あ〜ダメだ〜それは反則だ。

「いえ……」

──あ〜この先がやっぱり怖くて聞けない。

あの綺麗な彼女さんとのこと。

「あ、ごめん、ひまり彼氏居るのか?」

と、誤解をさせてしまったようだ。

「え? いえいえ、そんなの居ませんよ」と、また私は、両手をぶるぶるさせた。

──どうして、そうなるの?

「そっか、なら良いよな」

と、なぜか下を向いて笑っている田上さん

──ん? 良いの? あなたの方が彼女に妬かれたりするのでは? え? とても寛大な女性なのかしら?

私ならたとえ部下だと分かっていても女性と2人キリでなんて食事に行って欲しくはないな。

それとも、まさか別れたの?

いや、まさかだよね、そんな噂は全く聞かないんだけど……

かといって、今、いきなり『彼女は?』とは聞きにくい。

う〜ん、まだ楽しい食事も始まってもいないのに、

雰囲気を壊したくはない。

やっぱり、後でじっくり聞いてみることにするか。

そうこうしているうちに、お店の前に到着したようだ。

「うわ〜オシャレなお店! 可愛い〜」

タクシーを降りて思わず見入ってしまった。

白を基調としたウッディな建物で、玄関では、大きなうさぎの置物がお出迎えしてくれている。

「か、可愛い〜」

幼稚だと思われたくはないので、あまり大声では言えないが、何を隠そう私は無類の·····なのだ!

本当は、会社で使う私物、全てをうさぎで統一したいぐらいなのだが、さすがにそれは、ちょっと恥ずかしいから会社ではシンプルな物にしている。

なので、お気に入りのボールペン1本だけには、うさぎが付いている。

お店の建物全体にイルミネーションも点いていて、クリスマスのような飾り付け。とても綺麗だ。

ニコニコしていると、

「気に入ってもらえたようで良かった! どうぞ」

と、田上さんは、白い木の扉を開けてくれた。

「ありがとうございます」

お店の中に入り、

「先程予約しました、田上です」と告げると、

「お待ちいたしておりました」と、席に案内された。

予約してくださってたんだ、と知った。

アイボリーの革張りのシートで区切られた半個室のお席だから、それぞれのプライベートが保たれている。

そして、ガラス張りの壁から洋風の中庭が見える。外から中は見えないのだろうか、反対側の店内は見えないようなので、尚一層お庭が浮き上がって見えて美しい。

お庭には、綺麗なお花がたくさん咲いていて、木で出来たブランコまで有る。

たくさんのうさぎの置物たちがとても可愛いく佇んでいる。

「うわ〜可愛い〜」思わず声に出して言ってしまった。

──う、うさぎ···がいっぱい!

私の胸は、高鳴っていた。

家では、毎日お気に入りの大きなうさぎのぬいぐるみと一緒に寝るほど大好きなのだ。

笑われそうなので、誰にも言っていない。

もちろん田上さんにも言えない。恥ずかしい。

なのに……

「うさぎ、好きなのか?」と優しく聞かれた。

「え?……」

──どうして分かったんだ?

「ほら、いつもうさぎの付いたボールペン使ってるだろ?」と微笑んでいる。

──え! 見られてたんだ。どうしよう、変に隠すより認めた方が良いよね

「はい、好きなんです」とだけ言って微笑んだ。

「そっか」と言って田上さんも微笑んでくれた。

良かった、深掘りされなくて……

ホントはドキドキしていたのだが、田上さんはそこまで深掘りはしない。

「人それぞれ好きな物があるからな」

「そうですよね」

やっぱり、優しい人だ。

「あ〜うちの姉なんて、トカゲが好きって言ってるんだよ」

「えっ! そ、そうなんですね」

露骨に変な顔をしてしまった。私は、爬虫類が大の苦手だ。

「俺、爬虫類は、苦手だから……」

「そうなんですね、私もです」

良かった、気が合うと思った。

と言うか……初めて知ったが田上さんには、

お姉様がいらっしゃるんだ。

聞いてみた。

「お姉様がいらっしゃるんですね」

「うん、口煩い姉がね」

「そうなんですね」と微笑んだ。

「あ、でもようやく、姉貴も実家を出て落ち着くらしいから俺もスッキリ出来ると思ってる」と笑っている。

田上さんは、ご実家から通いなんだ、と知った。

「おめでとうございます」

「ありがとう」

──お姉様がご結婚。田上さんも、もうすぐ結婚しちゃうのかなあ?

ふと、そんなことが頭によぎって少し複雑な顔になってしまった。

そして、メニューを見ながら、「何が食べたい?」

と私を優先してくれる。

迷っていると、遠慮しているのではないか? と思って、「じゃあコレとコレにしようか?」と提案してくれる。

仕事でもそうだが、田上さんは、いつも優しい。

そういうところが大好きなのだ。

私の彼氏ではないけれど、これからもずっと私の··で居てください。

グラスのスパークリングワインが2人分来たのでグラスを持ち上げて乾杯をした。

「今日は、ありがとう! お疲れ様、乾杯〜」

「お疲れ様です、乾杯〜いただきます」

私は、ビールも呑めるが、まだビールの··苦味がよく分からない。

もう少し大人になれば美味しいと思うのだろうか。

だから、スパークリングは大好きなのだ。

「田上さんは、ビールが好きですか?」

「うん、好きだよ」

「そうですか……」

苦味の話をすると、やはり田上さんも最初は、··苦味がよく分からなかったようだ。

でも、

「今では、あれじゃなきゃダメなんだよな〜歳のせいか」と笑っている。

「え? まだ26になる年でしょう?」

「あ〜··26かな」

「え〜! まだまだお若いですよ」

そんな他愛もない話が楽しかった。

お料理が出て来て、パスタもピザも美味しくいただいた。

「あ〜お腹いっぱ〜い! 美味しかった〜ご馳走様〜」と、思わず家のリビングにいるかのように言ってしまった。

「ハハッ、なら良かった」

我に返って、急に恥ずかしくなってしまった。

でも、田上さんは、いつだって笑顔で接してくれる。

つられて笑ってしまった。そして、それと同時に悲しみが押し寄せた。

だって、楽しい推しとの時間がもうすぐ終わってしまう。こんなこと、もう次は、無いのかもしれない。

そう思うと悲しくて……

あ〜今日が終わらないでと願った。

ダメだ! ネガティブになるのは、やめよう!

今だけは、楽しいことだけを考えよう!

そんなことを考えてボーっとしていると、何やら話し始めた田上さんの言葉を最初の方、聞いていなかった。

──私としたことが、推しの貴重な話を聞き逃すとは、

そして、途中から聞こえて来たのは……

「……で、そろそろ部屋を探してて……」

──! あ〜やっぱり同棲でもするのかなあ?

あ、いやもう結婚なのかなあ?

大事な部分を聞き逃したままで、話は続けられている。

「女の人って、やっぱキッチンには、拘るものなのかなあ?」と言っている。

──え? それを私に聞く? そんなの彼女さんに聞いてよ。さすがにそれは、拷問だよ

と、思いながらも……

「そうですね〜お料理が好きな女性なら、そうかもしれないですね」と答えた。

あの方なら、お料理も上手そうだもの、

朝からオシャレな洋食料理が食卓に並びそう。

和食なんかも完璧に出来そうだわ。

と、ただ頭に浮かぶのは、会社No.1の美人彼女さんのことだけだ。

すると、

「ひまりは、料理するの?」と聞かれた。

「え? あ〜一応しますよ! 外食ばかりだと高くつくので、一気に何食分か作って冷凍しておいたりしてますよ」

「おお〜偉いなあ。一人暮らしなんだよな?」

「はい。自分の分だけだから適当なんで、とても他人には食べさせられないですけどね、ハハッ」

と言うと……

「そんなことないだろう! 仕事もいつも完璧だし料理も上手そうだ」

「お褒めいただき、ありがとうございます。でも、ホント適当なんで」

どうして今、私の話なんてするのだろう。

田上さんは優しいから、きっと話の流れでの社交辞令なんだよな。

私の頭の中では、美人彼女がせっせとお料理を作って、田上さんとイチャイチャしてる絵面が出て来た。

──あ〜もう! 私は、一体何を妄想してんだ

と勝手に妄想して勝手に落ち込む。

そして、更に続ける田上さん、

「一つ屋根の下に居ると、やっぱり男女で意見が分かれるんだよな」と言った。

──え? やっぱり、もうすでに同棲していらっしゃるのかな?

「キッチンとかリビングなんかのインテリア、ひまりの意見を聞かせてくれない?」と言われた。

「え?」

──どうして私が? いやいや、それは、聞く相手を間違えていますよ! 勝手に仲良くやってくださいよ。

さすがにちょっと辛すぎて、とうとう私は、

「それは、彼女さんに聞いてくださいよ!」と顔を引き攣らせながら言ってしまった。

すると、

「ん? 彼女?」

と、キョトンとした顔をしている田上さん。

「はい! 彼女さんに!」と強く言った。

「え? 彼女って誰のこと?」と言われた。

──は? この人は、この期に及んで推し歴1年超えの私に、まだ隠し事をするのか?

まあ、ただ私が一方的に推しているだけだけど……そんな1ファンには、そこまで知る権利は無いということなのか?

「だから、同棲されるのか、ご結婚されるのかは、知りませんが、一緒に住まれる方の意見を聞いてください!」と言うと……

「え? そんなことまで考えてくれてたの?」と、わけの分からないことを言っている。

「は?」

何の話よ! だんだん、腹が立って来た!

「どうして、ひまりは、そんなに怒ってるんだ?」

と言った田上さん。

「怒ってないですけど……」

と言いながら私の顔は、明らかに怒っていたのだろう。自分でも分かる。

だって、なんだかバカにされたようで辛かった。

「まだ、告白する前なのに……俺もう振られた?」と言っている。

──この人は、一体何の話をしているのだろう?

振られた? あ〜やっぱり彼女とは別れたのかなあ?

告白する前ってなんなんだ? 結婚のプロポーズのこと? そんなの知らないわよ!

もう勝手にやってよ!

「あのね、田上さんは、今部屋を探してるんですよね?」

「うん、そうだよ」と微笑んでいる。

「それは、近い将来彼女か奥様になる方と住む部屋なんですか?」

少し照れた顔をしながら、

「うん、そうなれば良いなと思ってる」と頬を赤らめている。

──ウウウッ、こんな時でも、くそ可愛い笑顔

違う!

彼女とのことを想像して照れているんだよな! ムカつく!

でも、怒りながらも、その顔がかわいい! と思ってしまっている自分が居る。

──はあ〜私の彼氏なら今すぐにでも、抱きしめるのに……

じゃなくて……

「だから、それは、そのお相手と相談して決めれば良いんじゃないんですか?」と言った。

「うん! だから、ひまりの意見が聞きたくて」

と笑っている。

「???……どうして私?」と、言うと、

田上さんは、

「俺の彼女になって欲しいから」と言った。

「……」

「ひまり、俺と付き合ってください!」

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